Thursday, February 18, 2010

貧困層とは(1)

こんにちは。陸@ボストンです。

これからしばらく、D-Lab技術が対象とする貧困層について、彼らの生活や技術とのかかわりについて、データを交えながら紹介していきたいと思います。

まず、「貧困削減」という時の、貧困層や低所得者層、はたまたBOPビジネスで使われるBase of the Pyramid層、とは誰を指すのでしょうか?

貧困の定義には、絶対定義と相対定義の2種類があり、国際開発で「貧困」という時には、たいてい絶対定義に基づく貧困層を指します。
(一方、日本などの先進国で貧困率を計算する際には、相対的貧困率を使うことが多いです。例えば、最近、日本でも貧困が増えている、と話題になっていますが、その際の基準は、日本国内の平均所得(中央値)の2分の1以下の所得の家計の割合を指しています。)

絶対貧困の定義も、各国・各国際機関で基準はさまざまですが、国を超えて貧困層の比較をするときに頻繁に使われるのが、日収1.25ドル以下の人を「最貧困層(Extreme poverty)」、2ドル以下の人を「貧困層(poverty)」と定めた世界銀行の基準です。

注:ちなみにBOPビジネスで使われる、「BOP層」とは、年収3000ドル以下の消費者層を指します。この定義でいくと、世界人口の約40億人が当てはまります。

さて、ここで、3つ質問です。

①「貧困層」は世界のどの地域に一番多くいるでしょうか?

②貧困はこの20-30年で減っているでしょうか?増えているでしょうか?

③「貧困」は「貧しい国」にいるのでしょうか?それとも各国に「貧しい層」として散らばっているのでしょうか?(例えば、先進国の下位10%と、途上国の上位10%では、どちらのほうが貧しいのでしょうか?)

----
①貧困層はどこにいるか?

皆さん、どの地域を想像しましたか?
2005年の統計データで確認してみましょう。

(百万人)

$1 poverty

$2 poverty

中国

207.7

473.7

その他東アジア

108.5

255.0

インド

455.8

827.7

南アジア

139.8

263.8

ヨーロッパ

17.3

41.9

ラテンアメリカ

46.1

91.3

中東

11.0

51.5

アフリカ

390.6

556.7

合計

1376.7

2561.5



実は、人数だけで見ると世界で一番貧困層がいるのはアジア、それもインドなのです。
インドは、近年急成長を遂げていますが、人口の約8割はいまだ一日2ドル以下で暮らしています。
実に世界の貧困層の3分の1ですね。

では、貧困は近年、増えているのでしょうか?減っているのでしょうか?

②貧困は減っているか?増えているか?

先ほどと同じデータで、1981年と2005年を比べてみましょう。

最貧困層(一日1ドル以下)の人数推移

(百万人)

1981

2005

中国

835.1

207.7

その他東アジア

236.4

108.5

インド

420.5

455.8

南アジア

127.8

139.8

ヨーロッパ

7.1

17.3

ラテンアメリカ

42.0

46.1

中東

13.7

11.0

アフリカ

213.7

390.6

合計

1896.2

1376.7



日収1ドル以下の最貧困層の合計人数は約19億人から14億人に減っています。
しかし、よく見ると、削減が進んでいるのはほぼ中国・東アジアのみ。アフリカでは過去25年で貧困層がほぼ倍増しています。

1980年から2000年のアジア地域の平均GDP成長率は年率5.8%。一方、アフリカは-0.6%となっています。時々、「経済発展は必ずしも貧困削減につながらないのではないか。」と聞かれることがあります。確かにインドのように、経済発展がすぐに貧困削減に結びつかないケースもありますが(そのインドでも貧困率で見ると1980年から2005年で60%から40%まで下がっています。)、最終的に貧困をなくすには、マクロ経済の成長が欠かせないと個人的には信じています。

一方、日収2ドル以下の貧困層の人口推移はどうでしょうか?

貧困層(1日2ドル以下)の人数推移

(百万人)

1981

2005

中国

972.1

473.7

その他東アジア

305.6

255.0

インド

608.9

827.7

南アジア

190.6

263.8

ヨーロッパ

35.0

41.9

ラテンアメリカ

82.3

91.3

中東

46.3

51.5

アフリカ

294.2

556.7

合計

2535.1

2561.5



ここでも中国の削減ぶりが目立っていますが、合計人数の推移では、貧困層が増加している結果となっています。
世界全体で見ると、残念ながら中国を除いて、貧困は増加しているのがこの20-30年の現状です。

注: このように「貧困層」を切り出すと、「貧困」が「白人」「女性」といった区分ラベルのような印象を受けてしまいますが、「貧困層」はとてもダイナミックなものです。ある調査では、5年間変わらず特定の貧困レベルに属していた人は全体の2割しかおらず、残りの8割は貧困から抜けたり、あらたに貧困に陥った人たちだったということがわかったそうです。つまり、実際に貧困を経験したことのある世界人口は25-26億人よりもずっと多い可能性もあるのです。


③貧富の差は国家間の差か国内の差か?

皆さんは、先進国(上位10%)の貧しい人(国内で下位10%)と、途上国(下位10%)の豊かな人(国内で上位10%)の購買力を比べると、どちらのほうが高いと思いますか?
実は、このクイズを先日、大学院で取っている開発経済の授業でやったのですが、クラスメートの予想は真っ二つに割れていました。

授業で紹介されたシミュレーション結果をご紹介しましょう:

途上国の富裕層の年収 = $3,039
先進国の貧困層の年収 = $9,387

先進国の底辺と途上国のトップを比べてもなお、差は3倍以上開いています。
「日本国内でも貧困率が上がっているのに、世界の貧困にかまっているひまがあるのか。」という質問も時々受けますが、貧しい国は、国内の貧困地域など比べ物にならないほどにやはり貧しいのです。

「貧しい国」という定義で世界を眺めていると、貧困国は圧倒的にアフリカに偏在しています。
例えば、「最貧困層が国民人口に占める割合」で見ると、上位に来るのはリベリア、ジンバブエ、チャド、シエラネオレ、モザンビークなど、アフリカ諸国がほとんどです。

下記のグラフは、横軸に一人当たりGDP、縦軸に平均寿命をとって、各国ごとにプロットしたものです:


















青色がアフリカを表していますが、左下の平均寿命も短く、年収も少ない区分に青色が集中しているのがよくわかります。D-Lab発のベンチャーも多くがアフリカを対象にしていますが、その理由もうなずけます。


ということで今日のまとめです。
  • 貧困層の定義はさまざまだが、よく使われるのが「一日1ドル/2ドル以下」の定義
  • 世界人口の約半数、26億人は一日2ドル以下で暮らしている
  • 貧困層は、人数で見ればアジアに最も多く住んでいる
  • 貧困は、国内の格差よりも国家間の格差から来ている。「貧困国」は圧倒的にアフリカに偏在
次回以降は、1日1ドル以下の人がどのような生活をしているのか、詳細な経済調査の結果を紹介し、貧困改善に役立つ技術の可能性について、
1.生活の質の向上
2.雇用創出
3.マクロ経済の成長
の三つのカテゴリーに分けて書いていきたいと思います。

No comments:

Post a Comment