Sunday, April 18, 2010

サイト変更のお知らせ

サイトを管理している東工大/MITの鹿野です。

この度、サイトを新しくリニューアルすることになりました。
どうぞ新しいサイトもよろしくお願い致します。

http://utbjp.blogspot.com/

Thursday, April 8, 2010

Paul Polak、訪MIT

MIT遠藤です。

今週の月曜日、Paul PolakがMITのD-labの見学とDesignのクラスでの講義のためのMITに訪れました。Paulは1981年にInternational Development Enterprise(IDE)という非常に有名なNPOを立ち上げ、水の感慨システムやポンプのような農業に必要な適正技術を使って途上国を支援しています。現在IDEは世界有数の大きな団体に成長し、活動範囲をインドからアジア諸国、アフリカ、さらにラテンアメリカにまで広げています。Paulとはfacebookやメールで何度かやり取りしたことはありましたが、実際に会うのは今回が初めてでした。

彼の講義は、スライドを使ったプレゼンテーションではなく、ただ彼が学生の前に座り、質問を受けて、自身のさまざまなストーリーを織り交ぜつつ、その質問に答えるというスタイルでした。驚くべきことは、すべての学生が彼の著書「Out of Poverty」を読んでおり、その内容に質問が集中していたことです。その中でも印象的だった質問をいくつか紹介します。

Q. 「本の中では現地のコミュニティーと対話をしなければならないとあるが、はじめていくところにはどうやってコンタクトをとるのか?」
A. 「はじめていくとしても、まったく知らないコミュニティーというのはない。常にすでに知っているコミュニティーを訪ねるのだ。どうやって知るかというと、必ず知り合いが紹介してくれる。ここで大切なのは、ここアメリカでもネットワークを大切にすることなんだ。」
この質問は日本でもよくされたものですが、D-labにいると本当にいろいろな方が話を広げてくださるので、非常にネットワークの大切さを感じます。この下地がまだ日本にはないのでしょう。この我々のネットワークは日本で個々に活動されている方々をサポートできるものの一つかと思っております。

Q. 「国連や世界銀行や政府などが援助しているにも関わらず、同じような国で活動されるのはなぜか?もっと援助が必要な国があるのでは?」
A. 「我々は大きな機関の調査を信用していない。言い方が悪いもしれないが、調査とは大抵10%の人は切り捨てらるもの。我々がやろうとしているのは、自分たちの目でみて、そこに問題があれば、その解決法を一緒に考えること。お金を援助することは必ずしも解決法ではない。」

彼は話の中で"How much they can afford to pay for what?"という言葉を何度も繰り返しました。例えば、農業で必要な水のくみ上げポンプは初期投資は彼らにとって高価かもしれないけれども、農作業の効率が上がり、作物の売り上げもあがれば、彼らは購入する必要があるというのだ。その結果、彼らの生活水準が向上するのだと。Paulは、最終的には寄付や援助に頼らず、彼らを自立させ、一定の経済レベルにまで押し上げることを常に考えているのです。

Paulの話を聞いて、D-labの創設者であるAmy Smithが彼から非常に大きな影響を受けていることを感じました。とくに、実際に現地に行かないと適正技術は作れないと言い切るくらいにまで、現地の人々との対話を重要視するところは、ニーズを理解しそのソリューションを生み出すプロセスを重視する、まさにエンジニアの魂であると感じました。

この夏、Amy Smithが主催するInternational Development Design Summitという学生向けのイベントが7/7から30まで開催されます。毎年適正技術を学び、考えることを行ってきましたが、今年は普及方法に着目し、現在すでにある適正技術を現地に根付かせる方法を提案することを目標にしているようです。場所がコロラドというのも、Paul Polakが現在コロラドに在住しており、彼の参加を呼びかけたことから決まったようです。(このようなイベントに日本の学生も参加すべきであると思うのですが、時期が期末試験と重なる大学が多いことから、難しいとの反応を受けたことがあります。)

授業のあと、簡単に私の授業の紹介と義足を紹介させていただきました。今後普及のネットワークに協力していただけることになりました。我々がもともと義肢装具の研究者であることにもおどろいていただき、エンジニアがこのようなことに目を向けることが大事であるとおっしゃっていました。まさに私が目指すところです。

Monday, March 29, 2010

適正技術とは

遠藤です。
今回10日間日本に滞在しましたが、そのうち5回もイベントに招待していただき、たくさんの方々にお会いする機会がありました。D-labのような「技術開発」と「国際開発」の2つの異なる「開発」を組み合わせた試みは日本では新鮮に見えるようで、多くの方に興味を持っていただきました。その中で一番多かった質問のひとつが「適正技術とはなにか?」というものでした。おそらく様々な団体が少しずつ異なる定義をしているかと思いますが、ここではD-labで教えている適正技術について紹介したいと思っております。多くの情報がD-labの教科書として使われている"Mastering the machine revisited: Poverty, aid, and technology"から学んだものです。

適正技術(Appropriate Technology)はもともとは中間技術(Intermediate Technology)という名前で、Ernst Friedrich Schumacherによって提唱されました。彼は名前から予想できるようにドイツ生まれですが、後々イギリスにて有名なEconomic Plannerとして活躍しました。戦後の復興活動の中で、高度な近代技術を用いた暴力的な援助が成功しないことから、ハイエンドでもローエンドでもない中間に存在する技術が、多くの雇用を生み出すということを述べ、中間技術の重要性を述べています。さらにSchumacherは仲間とともに非営利団体Intermediate Technology Development Group(ITDG)を立ち上げ、中間技術の普及に努めたのです。1960年代のことでした。のちにこれらのコンセプトは"Small is Beautifle"という書籍にて発表され、後の適正技術へ続いていきます。

その後、時代と共に戦後復興から途上国開発へと意味合いが変わり始め、中間技術という言葉が一般化されるようになりました。そして、中間技術という言葉は
  • 小型
  • 単純
  • 安価
  • 非暴力
という4つの特徴に集約されるようになりました。しかし、中間技術という言葉は相対的な言葉で、必ずしも適切な技術を意味するものではありませんでした。それはハイテクやローテクといった言葉にも当てはまります。例えばペニシリンは非常に有名な抗生物質でいずれの国にも適正な技術(かわりになる技術がないため)なはずですが、中間技術ではないのです。

そこで、Schumacherの死後、ITDGを引き継いだGeorge McRobieらは4つの特徴を引用しつつ、新しい適正技術という言葉を使うようになりました。適正技術とは
  • コミュニティーの多くの人が必要としている
  • 持続可能性を考慮した原材料、資本、労働力を用いる
  • コミュニティーの中で所有、制御、稼働、持続が可能である
  • 人々のスキルや威厳を向上させることができる
  • 人々と環境に非暴力的である
  • 社会的、経済的、環境的に持続可能である
という条件をすべて満たす技術のことを意味しています。ちなみにD-labのwebsiteでは
technologies designed to suit the needs of the community it is intended for, being culturally sensitive, environmentally responsible and spreading productive employment opportunities.
と紹介されております。

これらの定義の他にもさまざまな団体(OECDGRET、ATIなど)が適正技術に関する議論をしておりますが、個人的には言葉の定義に関して、最低限の定義は必要とは思いますが、細かく定義しすぎるのは無意味と思っております。大抵の団体は同じような定義をしておりますし、言葉の意味よりも行動のほうが重要だと思っているからです。

なので、「適正技術とはなんですか?」と聞かれたら、D-labのwebsiteのように「現地のニーズ、文化、環境、人などを考慮したうえでの、最善の技術」と簡単に説明させていただいてます。

参考文献
Ian Smillie, "Mastering the machine revisited: Poverty, aid and technology", Practical Action Publishing, 2000
E. F. Schumacher, "Small is beautifle", 1973
"Putting Partnership into Practice", ITDG, 1989

Tuesday, March 23, 2010

スタンフォード大学:Design for extreme affordabilityの授業紹介

こんにちは。この9月からスタンフォード大学のビジネススクールに入学予定の陸です。(ハーバードケネディスクールはビジネススクールとのJoint degree programを設けており、私はこの5月にケネディスクールでの一年目を終えて、9月から西海岸に移る予定です。)
以前、Kopernikのブログに、スタンフォードのDesign for Extreme Affordabilityという適正技術の授業見学の様子をレポートいたしました。

シンポジウム後の補足として、こちらのブログでも内容を紹介させてください。

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(以下、Kopernikブログより引用)

先週末、スタンフォードを訪問する機会があ り、そこでDesign for extreme affordabilityという途上国向け製品開発を教える授業 を見学してきました。今日は簡単にその授業の紹介をいたします。この授業は、IDEOの創設者であるDavid Kelleyが率いるD.Schoolというデザインスクールが運営する 授業の一つで、デザイン、エンジニアリング、ビジネスなど異なる分野を専攻する学生が互いのスキルを持ち寄って、提携先の NGOが持ち込んだ途上国でのデザイン課題に取り組んでいます。

授業構成の詳細は、こちらに載っているので見ていただければと思い ますが、授業を見学して感じた特徴についていくつか書いてみようと思います。

①Design Thinking
D.school全体を貫くテーマ が、
Design Thinkingという「人間(ユーザー)の生活全体を中心 に、総合的・クリエイティブに、現実的な解を考えよう、というコンセプトです。というと、訳がわからないように聞こえます が、例えばExtreme Affordabilityの授業では下記のようなパーツが織り込まれていました:

-Ethnography
記 述民族学などと訳されますが、マーケティングの手法の一つとしても注目されているもので、ユーザーの生活を文化人類学のように判断を はさむことなく丸ごと観察し、受け入れることで、ユーザーのニーズを理解・特定していくプロセスのことを指します。授業では、始 めは大学付近の消防士やウェイターなど自分とは全く違う生活をしている人を観察させる宿題を出すなどして、Ethnographyを 教えているとのことでした)

-Rapid Prototyping and iteration
製品デザインのプロトタイプを考 えるだけではなく、ビジネスモデル・プロモーションプランまで含めたトータルのビジネスデザインを短時間で考え、何 サイクルも回すことで改善を進めていくプロセスのことです。見学した授業ではちょうど、ベンチャーキャピタルに見せるビジネスプラン のプロトタイプをどう作るか、というエクササイズをやっていて、先生が「製品のポジショニングはこう考えるべし」という エッセンスを5分程度話したあと、5分ほど時間をとって、各チームがポストイットと模造紙を駆使して、アイディアをどんどん書いては 貼っていくというエクササイズを繰り返していました。(これまたマーケティングの世界でも使われる手法の一つで、前職で新ブランド立 ち上げの仕事にかかわっていた時にクライアント企業と行っていたエクササイズを思い出しました。)

教室の外では過去の受講生が作った パネルが展示されていました。いくつか紹介します:





②Multi-disciplinary / Collaborative dynamics
授業後にインストラクターに授業の一番のエッセンスを聞いたところ、最も強調し ていたのが「Multi-disciplinary」であることでした。異なるバックグラウンド、スキルセットを持った学生が集まる 中で初めてクリエイティブなアイディア、また包括的なビジネスデザインができるという言葉に大きく共感しました。

ま た、授業の大きな成功要因に、途上国にいるパートナーNGOの存在も挙げていました。パートナーを組んでいるNGOが、日頃の活動を 通して見えてきた現地のニーズや現在使っている製品の問題点などをあらかじめ的を絞って学生に伝えることにより、学生はすぐさまデザ イン思考のプロセスに入れるようです。プロジェクトの最終成果物も、まずはパートナーを組んでいるNGOを通じて現地での実用化の道を 考えるそうで、「現地からの情報吸い上げ」と「現地への製品提供」の双方向のコラボレーションがしっかりしていることが成功の秘訣と なっているようです。

③Practicality
もう一点、授業中繰り返しインストラクターが 強調していて、多少意外だったのが、「現実的であれ」というポイントです。
クリエイティビティという言葉から、ついつい「失 敗してもいいから好きに考えてごらん」という姿勢で臨むのかと思っていたのですが、インストラクターは授業中、繰り返し、「すでに世 の中に同じ製品があるなら、同じものは作るな。『買う』のがベストな解であることもある」「競合サーチを怠るな。100年前のアン ティークで実は必要な機能を満たしている製品をEbayで見つけて、それを改良したチームもある」「まずはパートナーを通じて製品を届けること を考えるように。ベンチャーを作ると、生産インフラから配達ネットワークまで一から作ることになって労力がかかる。」など と、「現実的に最も効率の良い解を考えるように」ということを強調していました。

デザイン思考のエッセンスの一つに「現実的で あること」があるそうですが、どこまでも、「どうやったらユーザーにとってのインパクトを最大化できるか」を中心に考えて いる姿勢の先に初めて成功するデザイン・ビジネスがあることを改めて実感しました。

もちろんこういった現実解を強調する一方 で、「リスクを自由に取れる環境」もばっちり用意されています。授業にはベンチャーキャピタル、弁護士、現地への旅行手配 などのサービスがしっかりついていて、実際にこれらのインフラを利用してベンチャー化したチームもいくつかあるようです。

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たっ た2時間の授業でしたが、途上国向けものづくりのエッセンスが詰まった、実り多い見学となりました。

Sunday, March 21, 2010

シンポジウムを終えて~私たちにできる始めの一歩~

3月20日のシンポジウムにご参加くださった皆様、休日にもかかわらず、足をお運びくださり、ありがとうございました。
皆様のおかげでとても実り多い会となりました。終了後の懇親会で、他分野の方々が熱心に意見交換されていたのが大変印象的でした。

さて、シンポジウムを終えて、一つだけ言い足りなかったと後悔していることがあります。
「適正技術教育の輪を日本にも」という掛け声の下、皆さん一人一人へ行動をとるよう呼びかけましたが、果たして「私にもできる気がする」と思えるだけの自信のかけらを与えられたかどうか、と。

第1部の質疑応答で、東京工業大学の学生さんが素晴らしい質問をしてくださいました。
「東工大では、ICT ChannelというサークルでD-Labと同じような活動をしている。しかしながら、学生団体なので十分なリソースのサポートもないし、卒論にすることもできないので学生の時間も割きづらい。D-Labはどのように始まったのか。またどこから資金をもらっているのか。」というものでした。

質疑応答中は時間の都合上、十分にお答えをすることができませんでしたが、「D-Labの活動は良くわかった。では、私たちはどうすればいいのか」という心の叫びが聞こえるようで、シンポジウム終了後も、ボストンへの飛行機の中も、ずっとその質問がつきまとって頭を離れませんでした。

今日はこの場を借りて、私なりの回答を書いてみようと思います。
D-Labは以前のエントリーにもあるとおり、2003年にEdgerton CenterでInstructorをしていたAmy Smithが始めました。初めてコースが開講された頃、私はMITに学部生として在籍していましたが、卒業する2006年まで、D-Labについてはほとんど知りませんでした。 Amy Smithについては、Genius Grantを受賞した2004年に、学内新聞で名前を見かけていましたが、その時の印象も、「へえ、大学内には不思議なことをしている人もいるんだ。」という程度の認識でした。
Edgerton Centerは日本で言えば工学部に併設された工作室、東工大でいえば、「ものつくりセンター」のようなセンターです。そのセンターのインストラクターといえば、いわば「工作室のおっちゃん」(いえ、Amyはおっちゃんではなかったわけですが)。D-Labは決して、華々しく工学部の新規コースとしてデビューしたわけでもなく、学長の戦略的教育プログラム拡張によって導入されたわけでもなく、大学の工作室の隅で、物好きな人がひっそり始めた、ひっそりしたコースだったのです。

そのD-Labは今や、MITのAdmissionのページでも宣伝されるほど、大学にとっての自慢コースの一つになっています。シンポジウムのプレゼンにもあったとおり、12クラスの授業は毎回すべて定員オーバーで生徒の選抜に苦慮するほどです。

どうしてそこまで広まったのか。様々な要因がありますが、本質的にはAmy Smithから始まったD-Labがその後、多数のインストラクター・パートナー団体をはじめ、新たな仲間を巻き込み、常に「オモシロイモノ」を生み出し続けてきたからではないかと思います。Joseが率いるInnovations in International Healthでは、構想段階のものまで含めれば、100以上の医療機器関連の開発が進んでいます。遠藤さんの教えている義足の授業には、MITで最先端の義足を開発するBiomechatronics Groupの知見が生かされています。D-Labからスピンアウトしたベンチャーの一つであるGlobal Cycle Solutionsでは、自転車動力の開発を授業のプロジェクトでとどめるのではなく、ビジネス上、持続可能な方法でアフリカ諸国に導入するやり方が模索されています。

もうすぐYouTubeにアップしますが、Joseや遠藤さんのプレゼンは聞いているだけで、「一・理系人間」としてわくわくしてしまいます。こんな授業があったら受けてみたい、と心から思います。私が今、MITの学部にいたら、間違いなく授業を受けていたでしょう。(現にハーバードから聴講しに行っているクラスもあります。)

・生徒が受けたいと思う授業が提供されている
・受講した生徒に、確かな教育インパクトが出ている(受講した生徒の「目の色が変わった」という声は方々から聞きます)
・授業からスピンアウトした技術が世界中のパートナーから必要とされ、喜ばれている

こんなプログラムを大学がほっておくはずがありません。
始まりのハコは、実はなんでもいいのです。要は、中身をどれだけ情熱を傾けて作りこめるか、なのだと思うのです。

ほかの大学の適正技術教育プログラムを見ると、驚くほどにどの大学でも、一人か二人の情熱あふれる人(+その熱烈な仲間)がプログラムを支えていることがわかります。
CaltechのProduct Design for the Developing WorldKen PickarというVisiting Professorが、Engineers for a sustainable worldという学生中心の団体(2002年にコーネル大学の大学院生だったRegina Clewlowが始めた団体です)とコラボして始めた授業です。
UC BerkeleyのDesign for Sustainable CommunityはAshok GadgilというLawrence Berkeley National Laboratoryという国立研究所のシニア研究員が2006年に始めたものです。
ミシガン大学機械工学部で始まったGlobal Health Design Specializationというマイナー専攻は、Kathleeen SienkoというAssistant Professorが中心になって立ち上げたものです。(彼女はMITでドクターをしていた頃にD-Labについて知ったようです。)
UC DavisのProgram for International Energy Technologiesというプログラムは、MITのD-Labの発展にもかかわっていたKurt Kornbluthが中心になって設立しています。

書いていくとキリがありませんが、言いたかったのは、今は華やかに見えるアメリカの適正技術教育のプログラムも、最初は、大学の隅っこで、みんなからCrazyだと思われていたかもしれない、(そしておそらくCrazyだった)情熱あふれる誰かの一歩から始まった、ということです。

始めるのに立場は関係ありません。学生だからといって萎縮することも落ち込む必要もありません。
誰にでも、最初の一歩は切り開けるのです。

日本でも、一緒に、「オモシロイコト」、始めませんか。

Friday, March 19, 2010

「大学」×「技術」×「BOP」シンポジウム いよいよ本日

いよいよ、シンポジウム当日となりました!若干名、当日受け付けることが出来る可能性がございますので、もしご希望の方は直接会場受付までお越しください。皆様とお会いできるのを、実行委員一同、楽しみにしております!

Wednesday, March 17, 2010

「大学」×「技術」×「BOP」シンポジウム 定員到達、レセプション申し込み開始のお知らせ

3月20日の「大学」×「技術」×「BOP」シンポジウム、非常に直前の告知にも関わらず多くの皆様に申し込み頂き、ありがとうございます。

現在、定員を上回る参加申し込みを頂きましたことから、キャンセル待ちフォームに切り替えております。最終的な参加可否については、シンポジウム前日までに全ての方にご連絡差し上げますので、ご登録ください。ホール定員との兼ね合いを見ながら、繰り上げるかどうか調整させていただきます。なお、参加申し込みが確定されている方には、メールにて本日ご連絡差し上げました。1人でも多くの方を会場にご案内するため、お手数ですが御都合が悪くなりました場合にはご連絡頂ければ幸いです。

なお、レセプションの受付を開始いたしました。シンポジウム終了後、お隣の部屋でサンドイッチとお飲み物による非常に簡単なものをご用意いたします。(費用は2000円となります)こちらは先着150名、発注の関係で18日(木)午後6時を期限とさせて頂きますので、ご参加を希望されます場合はお早めにご登録ください。

Wednesday, March 10, 2010

【シンポジウム】 「大学」×「技術」×「BOP」 - 日本発、世界を変えるイノベーション

3月20日のイベント詳細が決まりました!多くの方に我々の活動を知っていただく機会になればと願っております。参加申し込みはこちらからお願いします。皆様とお会いできますことを楽しみにしております。

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貧困を始めとする、地球規模の様々な社会問題の解決が求められている中で、世界のトップ大学を中心に「技術」と「国際開発」を組み合わせた実践的教育が注目されています。技術立国を目指し、世界の課題解決を使命とするわが国でも、グローバルリーダー育成、実効性のある国際貢献、さらなる産学官連携に取組み、新たな理工学教育のあり方を世界に発信することが必要です。

本シンポジウムでは、その第一歩として、マサチューセッツ工科大学(MIT)の途上国開発に寄与する先進的講義(D-Lab)、そして日本の大学、産業界における取組みを紹介し、日本で進めるべき理工学教育・産学連携のあり方を考えます。詳細は下記のとおりとなっております。

ご多忙の折とは存じますが、是非ともご臨席をお願い申し上げます。


                     記

■イベント名
  「大学」×「技術」×「BOP」 - 日本発、世界を変えるイノベーション

■ 開催日時・場所
  2010年3月20日(土) 10:00 - 17:00
  政策研究大学院大学 想海樓ホール
   ※会場へのアクセスはこちら
   
■ 主催
  「大学」×「技術」×「BOP」 シンポジウム実行委員会

■ 共催
  政策研究大学院大学

■ 参加申込/お問い合わせ
  参加申込、およびイベント、その他のお問い合わせは、こちらのサイトよりお願いいたします。
  申込期限は3月18日(木)24:00です。
   ※参加費は無料です。
   ※定員(250名)到達次第の締め切りとさせて頂きます。

■ プログラム

 <午前の部> 10:00 - 12:00
   ・主催者挨拶
   ・基調講演 - William H. Saito 氏 (CEO, Intecur, K.K.)
   ・欧米のトップスクールにおける適正技術教育の広がり - 陸 翔 (ハーバード・ケネディースクール)

   第1部 MIT D-Labの取り組み
    モデレーター - 陸 翔
     ・D-Lab の概要 - 遠藤 謙, José Gómez-Márquez(MIT)
     ・D-Lab Health (医療機器開発)José Gómez-Márquez (MIT)
     ・D-Lab Prosthetics (義足開発) - 遠藤 謙 (MIT)

 <午後の部> 13:00 - 17:00
   第2部 日本の大学における取り組み
    モデレーター:高田潤一 氏(東京工業大学国際開発工学専攻長)
     ・エジプト日本科学技術大学 - ラメシュ・ポカレル氏 (九州大学助教)
・BOPを変革する情報通信技術 - アシル・アハメッド 氏 (九州大学准教授)
     ・ICU サービスラーニングセンター - 本郷好和 氏 (国際基督教大学准教授)

   第3部 産業界の取り組み、産学連携への期待
    モデレーター: 岡田正大 氏 (慶應ビジネススクール准教授)
     ・南アジアのソーラー灌漑電気自動車 - 金平直人 氏 (大手コンサルティング会社)
     ・ガイア・ソーラーランタンプロジェクト - 藤田周子 氏 (ガイア・イニシアティブ事務局長)
・ユーザーイノベーションを通じた途上国向け商品開発 -西山浩平 氏 (エレファントデザイン代表取締役)
     ・世界中の水をきれいに - 小田 兼利 氏(日本ポリグル会長)

   ・基調講演 黒川清 氏 (政策研究大学院大学教授)
   ・閉会の辞
 
 ※各部末では、質疑応答、総合討議の時間がございます。
 ※日本語/英語両方でのセッションを予定しています。
 ※講演者・タイトルについては、変更の可能性があります。

Tuesday, March 9, 2010

東京大学: AGSでのワークショップ

3月18日(木)のワークショップ詳細が決定しました!"Innovation for Sustainable Development" をテーマに、MITのD-LabからJosé Gómez-Márquez遠藤謙、東京大学のi.schoolから堀井秀之先生博報堂ユニバーサルデザインから井上滋樹氏Ecole Polytechnique Fédérale de Lausanne(EPFL)の建築学科からNing Liu氏に御講演いただきます。パネルディスカッションには、この分野の政策研究に詳しい鎗目雅先生にも加わって頂き、工学、教育、デザイン、建築、政策など様々な角度から、地球規模の社会問題へのイノベーションを増やしてゆくにはどうすべきか議論します。モデレーターはMITの言語学科教授でOCWの中心メンバーでもある宮川繫先生が引き受けてくださいました。

もしお時間が合えば、是非お立ち寄りください。出席には、AGS年次総会への参加登録が必要となります。会場は、医学部教育研究棟13階、第6セミナー室です、ワークショップは全て英語で行われます。イベントの詳細はAGSのホームページをご覧ください。

皆様とお会いできるのを楽しみにしております。

Monday, March 8, 2010

Jaipurfoot Pooja Mukul氏のレクチャー

3月3日、Developing World ProstheticsはJaipurfootのJaipurのクリニックよりPooja Mukul氏を招待し、レクチャーをしていただいた。

9時から14時まではJaipurfootのクリニックでボランティアとして活動し、16時から21時まで自分のクリニックで医者として働いているアクティブな女性です。


彼女は2005年から今のように二足のわらじを履くようになりました。彼女のレクチャーはインドの現状や先進国との違い、我々のような大学機関に求めることなど、非常のおもしろい内容でした。そのいくつかを以下に挙げてみます。
  • インドの切断患者は先進国と比べて非常に若い。その理由が電車や車の自己(先進国では糖尿病)
  • Dr. Wu(Northwestern Univ.)のソケットを作る技術は根付かなかった。その理由は、結局トレーニングを受けた人が必要だったから。(使うのが難しい)
  • Jaipurfootにはアメリカからも患者がくる。その理由は、2つめ3つめの義足をつくるには、保険が適用されず、いいものが使えないから。
  • Jaipur footは98%の利用者が満足している。
詳しくはDWPのwebsiteの彼女のスライドをアップする予定です。

彼女はこの数年StanfordのD.schoolのJoel Salder氏と協力し、Stanford kneeという義足の開発を行ってきました。いわば、我々のライバルです。ただし、ライバルといっても本当に競争していわけではなく、協力して授業の内容を話し合ったり、 Jaipurfootの義足を改善していこうとしております。(ちなみにJoelは昔MITの学部生のときにD-labを受講した人物です。)
義足には、大きく分けてEndo skeleltonとExo skeletonの2種類が存在します。Endo skeletonは、骨の周りに筋肉が着いている人間の筋骨格系と同じように、義足の中心に体重を支える堅い素材を使うのに対し、Exo skeletonは外骨格をもつ蟹のように、外部に堅い素材を使います。Stanford KneeはEndo skeletonを採用し、われわれはExo skeletonと使うという棲み分けをしています。そのために、我々の義足をExo-kneeを呼んでいるのです。

現状では、Stanford KneeはJaipurのクリニックだけだが既に患者に配布されているのに対し、我々の義足は残念ながらNew Delhiのクリニック周辺で3名が試験的に使っているだけです。その理由は、設計した学生が卒業してしまい、プロジェクトが数年ストップしてしまったからです。。これは学生主体のD-labの問題点でもあります。今年は私自ら設計し直し、今年の夏の配布を目指しているところです。

次の日、Poojaと私のアドバイザーHugh Herrを引き合わせました。その理由は、Hughのようなばりばりの研究者にこそ、このような問題に目を向けてほしいからです。最先端技術にばかり偏りがちの大学の研究室ですが、彼のように力もお金もある人物が動けば、少しずつでも適正技術開発にも目を向ける研究者が増えるのではと期待しています。

Monday, March 1, 2010

3月18日、3月20日のイベント

最終案が固まっておらず公開出来ないのですが、現在3月18日と3月20日にも東京でD-Lab関係のイベントを開催する準備を進めております。全ての講演者、会場が確定しましたらブログにも投稿いたします。現段階では、手帳に「イベントがありそう」とだけ記載しておいてください。

3月18日は東京大学本郷キャンパスでAGS年次総会の一部として"Innovation for Sustainable Development"というテーマのセッションを開催する予定です(March 18, Workshop C)。時間は14:00-17:30となります。講演は英語で行われます。

3月20日は我々D-Lab Japan(任意団体)が主催で「大学発、技術を通じた地球規模の社会問題解決」をテーマにした一般公開イベントを開催予定です。時間は朝10時から夕方5時頃までとなりそうです。適正技術、大学国際化、国際貢献、産学連携、BOPビジネス、イノベーション、社会起業、理工系大学教育改革などに興味がある方には満足していただけるシンポジウムになると思います。日本語、英語両方のセッションを予定しております。

Saturday, February 27, 2010

Kopernik中村さん、Ewaさん来MIT

先日Kopernikの創始者である中村さんとEwaさんがMITのD-labを視察にいらっしゃいました。
Kopernikの中村さんとは依然からメールでやり取りをさせていただいていましたが、今回初めて直接会うことができました。


中村さんとEwaさんはD-lab DesignHealthを聴講し、私の義足のクラスではお願いしてKopernikの発表をしていただきました。学生も非常に興味深々で講義が終わった後も、Kopernikでのインターンに関して質問をしたり、持ってきていただいたライフストロー自分で調節が可能な眼鏡を手に取ってみていました。私自身も実物は初めてみたのですが、その完成度と価格の低さに脱帽です。

Kopernikは現在は、既に存在する製品の普及を主なビジネスモデルにしています。しかし、その裏の活動は実は多岐にわたっており、製品として売り出しているものは少ないが、ポテンシャルの高い技術、普及の初期段階の製品をいかにして世の中に広げていくかというモデルまで提案していただきました。このようなモデルはD-labのような教育機関に非常に有効です。さらには、D-lab DWPとKopernikの協力体制に関するアイデアまで提案していただきました。

今後ともKopernikに目が離せません。

Friday, February 26, 2010

D-Lab x 中小企業が持つ先端技術

こんにちは。
前回のポストにもあった遠藤さん、Joseの来日に合わせて、下記のイベントにお二人が参加することになりました!

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セミナー: 「途上国の問題を日本の先端技術で解決する」
~飛躍する日本のものつくり中小企業~

日時: 3月19日18:00-21:30
場所: 代々木オリンピックセンター国際交流棟第1ミーティングルーム

(申し込みは上記リンクよりお願いいたします)
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イベントを主催しているETICの皆さん、またETICをご紹介くださったKopernikの中村さん(D-Labにも協力いただいています)に改めて御礼申し上げます。

ほかにも18日、20日にD-Lab関連イベントを予定しています。
皆さんの出席を心よりお待ちしています。

Tuesday, February 23, 2010

D-Lab Japan Kick-off Events

MITのD-Labのスタッフを3月に日本へ招待することが正式に決まりました!D-Lab Healthを教えているJosé Gómez-MárquezD-Lab Prostheticsを教えている遠藤謙さんがメインゲストで、3月18日-20日に東京に滞在予定です。私(土谷)も彼らの来日に合わせ、東京に滞在する予定です。イベントの共催、ミーティングにご興味がある方がおられましたら、ご連絡ください。私のメールアドレスは(last name.first name)@gmail.comです。

Thursday, February 18, 2010

ワークショップのご案内: 「日本を通じて世界を変える」

こんにちは。
日本から面白そうなワークショップの案内が流れてきました。
案内を頼まれたので、ここで宣伝させていただきます!
皆さんも良かったら、思いを1分間プレゼンの形でぶつけてきてください!

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━━━━
第4回「日本を通じて世界を変える」
~途上国の国作り、人作りのためにわたしたちができること(仮)
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2010年2月21日(日)15:00-19:00@渋谷
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
主催:ソーシャルベンチャーセンター(事務局ETIC.)

ソーシャル・チェンジ・ワークショップとは?

環境、格差、福祉、教育、国際協力。毎回、一つの共通テーマのもと、
それぞれの立場でチャレンジを続ける人々が集い、未来へのアイデアを
生み出し、新たな変革へのアクションへと繋げるワークショップ。

各テーマの最前線で挑む実践者を招き、問題意識や解決への戦略を共有
するともに、各参加者が持つ自分自身のテーマを共有し、お互いに
アドバイスを掛け合い、協働の可能性を探ることで前進の機会を掴みます。

多様な思いの種が、ここから様々に成長し花開いていくための
大きな力付けの場となることを目指しています。


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃■ プログラム概要&テーマ紹介
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【プログラム】
◎レクチャー 15:00-16:00
「日本を通じて世界を変える」
~発展途上国の国作り、人作りのためにわたしたちができること(仮)

独立行政法人国際協力機構(JICA)民間連携室 参事役
高野剛 (たかの たけし)氏
1982年3月、上智大学外国語学部卒業。
1982年4月、国際協力事業団(JICA、当時)入団。
1999年6月、中南米部南米課長。
2002年3月、ホンジュラス事務所長。
2005年2月、理事長室次長兼理事長秘書役。
2006年10月、産業開発部次長兼民間セクターグループ長。
2009年4月より現職。

◎創発ワークショップ 16:00-17:30
”途上国の国作り、人作り”のために私達に何ができるか?
ご自身がすでに取り組まれている活動内容、もしくは普段から
考えられているアイデアをA3の紙に記入し、お互いに発表しあい、
さらなる発展に向けてのアドバイスを与え合ったり、
協働の可能性を模索します。

*ワークショップ参加までに当日話し合いたい内容を
考えておいてください。アイデアは事前にパワーポイントなどを
使ってA3の紙1枚にまとめておいていただいても構いません。
*外国人の方の参加がある場合、当日の議論は一部英語で行われる
可能性があります。特に通訳等のご準備はありませんので予め
ご理解ください。

◎インタラクティブQ&Aセッション 17:30-18:00 

◎交流会 18:00-19:00

*交流会にて、1分プレゼンテーションの機会があります。
ご自身のアイデアをこの場で広めてよりたくさんの仲間作りを
したいという方は事前に事務局svc-info@etic.or.jpまで
ご連絡ください。

【対象者】
・まだアクションは起こしていないが、途上国の社会の課題に取り
組みたい思いが強く、このワークショップを機にアイデアを紙に
落としてアクションのきっかけを掴みたい方。
・会社で途上国の国作りにかかわる新しい提案をしたいと思って
いるがその前にいろんな人の意見をもらってアイデアをブラッシュ
アップしたい方。
・すでに途上国の課題に対してアクションを起こしているが、
自分のアイデアをさらにブラッシュアップし、事業体として
成り立つ確立を高めたい方。

*学生、大学院生、企業にお勤めの方など、様々な視点を
持った方のご参加をお待ちしております!


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┃■ 開催概要
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○日時:2月21日(日)15:00~19:00

○会場:ティーズアジアビル B101会議室
http://www.tsrental.jp/location/asia/map.html
〒150-0041 東京都渋谷区神南1-12-16 アジアビルB1・2F・5F
TEL : 03-5457-7881  FAX : 03-5457-7883

○参加費:無料

○申込先:
参加ご希望の方はソーシャルベンチャーセンター 
Webページよりお申し込みください。
http://www.etic.or.jp/svc/index.html

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◇お問い合わせ NPO法人ETIC.(担当:山内(亮太)・野田) 
東京都渋谷区神南1-5-7 APPLE OHMIビル4階 / TEL:03-5784-2115
MAIL:svc-info@etic.or.jp / WEB:http://www.etic.or.jp/svc/
ソーシャルベンチャーセンターは、東京都の委託を受けETIC.が運営を
行っています。
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貧困層とは(1)

こんにちは。陸@ボストンです。

これからしばらく、D-Lab技術が対象とする貧困層について、彼らの生活や技術とのかかわりについて、データを交えながら紹介していきたいと思います。

まず、「貧困削減」という時の、貧困層や低所得者層、はたまたBOPビジネスで使われるBase of the Pyramid層、とは誰を指すのでしょうか?

貧困の定義には、絶対定義と相対定義の2種類があり、国際開発で「貧困」という時には、たいてい絶対定義に基づく貧困層を指します。
(一方、日本などの先進国で貧困率を計算する際には、相対的貧困率を使うことが多いです。例えば、最近、日本でも貧困が増えている、と話題になっていますが、その際の基準は、日本国内の平均所得(中央値)の2分の1以下の所得の家計の割合を指しています。)

絶対貧困の定義も、各国・各国際機関で基準はさまざまですが、国を超えて貧困層の比較をするときに頻繁に使われるのが、日収1.25ドル以下の人を「最貧困層(Extreme poverty)」、2ドル以下の人を「貧困層(poverty)」と定めた世界銀行の基準です。

注:ちなみにBOPビジネスで使われる、「BOP層」とは、年収3000ドル以下の消費者層を指します。この定義でいくと、世界人口の約40億人が当てはまります。

さて、ここで、3つ質問です。

①「貧困層」は世界のどの地域に一番多くいるでしょうか?

②貧困はこの20-30年で減っているでしょうか?増えているでしょうか?

③「貧困」は「貧しい国」にいるのでしょうか?それとも各国に「貧しい層」として散らばっているのでしょうか?(例えば、先進国の下位10%と、途上国の上位10%では、どちらのほうが貧しいのでしょうか?)

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①貧困層はどこにいるか?

皆さん、どの地域を想像しましたか?
2005年の統計データで確認してみましょう。

(百万人)

$1 poverty

$2 poverty

中国

207.7

473.7

その他東アジア

108.5

255.0

インド

455.8

827.7

南アジア

139.8

263.8

ヨーロッパ

17.3

41.9

ラテンアメリカ

46.1

91.3

中東

11.0

51.5

アフリカ

390.6

556.7

合計

1376.7

2561.5



実は、人数だけで見ると世界で一番貧困層がいるのはアジア、それもインドなのです。
インドは、近年急成長を遂げていますが、人口の約8割はいまだ一日2ドル以下で暮らしています。
実に世界の貧困層の3分の1ですね。

では、貧困は近年、増えているのでしょうか?減っているのでしょうか?

②貧困は減っているか?増えているか?

先ほどと同じデータで、1981年と2005年を比べてみましょう。

最貧困層(一日1ドル以下)の人数推移

(百万人)

1981

2005

中国

835.1

207.7

その他東アジア

236.4

108.5

インド

420.5

455.8

南アジア

127.8

139.8

ヨーロッパ

7.1

17.3

ラテンアメリカ

42.0

46.1

中東

13.7

11.0

アフリカ

213.7

390.6

合計

1896.2

1376.7



日収1ドル以下の最貧困層の合計人数は約19億人から14億人に減っています。
しかし、よく見ると、削減が進んでいるのはほぼ中国・東アジアのみ。アフリカでは過去25年で貧困層がほぼ倍増しています。

1980年から2000年のアジア地域の平均GDP成長率は年率5.8%。一方、アフリカは-0.6%となっています。時々、「経済発展は必ずしも貧困削減につながらないのではないか。」と聞かれることがあります。確かにインドのように、経済発展がすぐに貧困削減に結びつかないケースもありますが(そのインドでも貧困率で見ると1980年から2005年で60%から40%まで下がっています。)、最終的に貧困をなくすには、マクロ経済の成長が欠かせないと個人的には信じています。

一方、日収2ドル以下の貧困層の人口推移はどうでしょうか?

貧困層(1日2ドル以下)の人数推移

(百万人)

1981

2005

中国

972.1

473.7

その他東アジア

305.6

255.0

インド

608.9

827.7

南アジア

190.6

263.8

ヨーロッパ

35.0

41.9

ラテンアメリカ

82.3

91.3

中東

46.3

51.5

アフリカ

294.2

556.7

合計

2535.1

2561.5



ここでも中国の削減ぶりが目立っていますが、合計人数の推移では、貧困層が増加している結果となっています。
世界全体で見ると、残念ながら中国を除いて、貧困は増加しているのがこの20-30年の現状です。

注: このように「貧困層」を切り出すと、「貧困」が「白人」「女性」といった区分ラベルのような印象を受けてしまいますが、「貧困層」はとてもダイナミックなものです。ある調査では、5年間変わらず特定の貧困レベルに属していた人は全体の2割しかおらず、残りの8割は貧困から抜けたり、あらたに貧困に陥った人たちだったということがわかったそうです。つまり、実際に貧困を経験したことのある世界人口は25-26億人よりもずっと多い可能性もあるのです。


③貧富の差は国家間の差か国内の差か?

皆さんは、先進国(上位10%)の貧しい人(国内で下位10%)と、途上国(下位10%)の豊かな人(国内で上位10%)の購買力を比べると、どちらのほうが高いと思いますか?
実は、このクイズを先日、大学院で取っている開発経済の授業でやったのですが、クラスメートの予想は真っ二つに割れていました。

授業で紹介されたシミュレーション結果をご紹介しましょう:

途上国の富裕層の年収 = $3,039
先進国の貧困層の年収 = $9,387

先進国の底辺と途上国のトップを比べてもなお、差は3倍以上開いています。
「日本国内でも貧困率が上がっているのに、世界の貧困にかまっているひまがあるのか。」という質問も時々受けますが、貧しい国は、国内の貧困地域など比べ物にならないほどにやはり貧しいのです。

「貧しい国」という定義で世界を眺めていると、貧困国は圧倒的にアフリカに偏在しています。
例えば、「最貧困層が国民人口に占める割合」で見ると、上位に来るのはリベリア、ジンバブエ、チャド、シエラネオレ、モザンビークなど、アフリカ諸国がほとんどです。

下記のグラフは、横軸に一人当たりGDP、縦軸に平均寿命をとって、各国ごとにプロットしたものです:


















青色がアフリカを表していますが、左下の平均寿命も短く、年収も少ない区分に青色が集中しているのがよくわかります。D-Lab発のベンチャーも多くがアフリカを対象にしていますが、その理由もうなずけます。


ということで今日のまとめです。
  • 貧困層の定義はさまざまだが、よく使われるのが「一日1ドル/2ドル以下」の定義
  • 世界人口の約半数、26億人は一日2ドル以下で暮らしている
  • 貧困層は、人数で見ればアジアに最も多く住んでいる
  • 貧困は、国内の格差よりも国家間の格差から来ている。「貧困国」は圧倒的にアフリカに偏在
次回以降は、1日1ドル以下の人がどのような生活をしているのか、詳細な経済調査の結果を紹介し、貧困改善に役立つ技術の可能性について、
1.生活の質の向上
2.雇用創出
3.マクロ経済の成長
の三つのカテゴリーに分けて書いていきたいと思います。

Tuesday, February 16, 2010

世界でもっとも影響力のあるデザイナー

「デザイナー」と日本語でいうと、芸術/美術的ニュアンスを多く含む傾向にあるけれども、実は機械や建築、都市、さらには経済やwebsiteなど、非物理的なものを形作るときにも「デザイン」という言葉を使います。先日businnesweekWorld's Most Influential Designersという名目で、27人のデザイナーが紹介されました。IDEOのTim Brown氏や日本の工業デザイナーの深澤直人氏も選ばれています。その中にD-labの創設者Amy Smith氏の名前が挙げられています。

27名の中には名だたるデザイナーたちがいて、Amy Smith氏はその中でも分野的に異色ではありますが、それはローコスト、ローテクノロジーを用いたソリューションがいかに世界に影響を与えているかという証明ではないかと思います。

Monday, February 15, 2010

Jaipurfoot 途上国向けの義足

先日Kopernikの中村さんに依頼され、Jaipurfootについて記事を書かせていただいた。
Kopernikについて(kopernikブログより引用)
Kopernikは、オンライン・マーケットプレースを通じて革新的技術を所有する会社、途上国のNGOそ して一般個人の3アクターをつなげ、BoP向けの革新的な技術・製品を、発展途上国に波及させます。 Kopernikウェブ上で、革新的な技術・製品を掲載し、それを見た途上国の市民団体がどのようにその技術・製品を使いたいかを書いた提案書を作成し、 ウェブ上に掲載します。提案書を見た一般ユーザーは、小規模の献金をし、提案書を実現させます。

Jaipurfootは世界最大の義肢装具コミュニティーで、MIT Developing World Prostheticsのパートナーです。数年前に夏にインターンとしてNew Delhiのクリニックへいったときに、途上国向けの義肢装具にもビジネスを考える必要があるという話を伺いました。(そのときに書いた記事こちら。)当時から、BoP市場向けのビジネス熱はふつふつと感じていましたが、去年から日本でもかなりの盛り上がりを見せています。

Friday, February 12, 2010

自己紹介・越田

日本側メンバーの越田渓と申します。


現在は、慶應義塾大学大学院理工学研究科の修士課程にてバイオメディカル・エンジニアリングの研究を行っております。

科学技術をバックグランドにビジネスを通して、広く社会に貢献したいという思いから、学部生時代は二年間、ダブルディグリー・プログラムとしてフランスのグランゼコール、Ecole Centraleにてゼネラリスト教育を受けました。


さらに、教授に無理を言って帰国を延長し、世界一愉快な国、ブラジルへ三カ月行って参りました。理由は、BRICsと言われるように経済発展著しいブラジルの現状はどのようなのか、あらゆる人種が混ざり合っている、言わば世界の未来のような国の文化・生活はどのようなのか、ちょうど日系移民100周年ということで自分と血がつながった(?)人々は今どのような思いでどのような生活をしているのかを知りたい・・・そして何よりもフランスで出会った多くのブラジル人留学生が本当にSympaで第二の故郷なのではないかと思わされるくらいの魅力を持っていたからです。


この二つの国でそれぞれ異なる現象、しかしどちらも日本には無いものを見ました。


フランス(おそらくイギリスなどもそうかもしれません)は、日本以上に学歴・階級社会です。一度、厳しい競争を勝ち抜いてグランゼコールに入学すると残りの人生の安泰は約束されています。誰もが彼らをエリートとして認め、彼ら自身もそのような自覚を持って生きていくという構図が成り立っています。


逆に、ブラジル(おそらく中国などもそうなのでしょう)は、貧富の差を乗り越え、少しでも社会的に上位の地位に昇りつめようと努力しています。アパートの同居人たちもテストでもないのに毎日夜遅くまで勉強していました。何よりも彼らから感じたのは、ブラジルを少しでも良くしたい、ブラジルに少しでも貢献したいという思いです。そこには強烈な自分自身に対するハングリー精神、国に対するハングリー精神がありました。


私は日本人ですし、日本が大好きですし、日本に対する責任があるので、日本の悪口をここで言うつもりはありません。ですが、この両国で見た現象のどちらもやはり今日本には欠けています。一流校と言われても、何かが約束されているわけでもなく、社会が本当に彼らを認めているわけでもなく、彼ら自身も全く日本を背負っているという自覚はない。逆に、受験という競争を終えてから、問題意識を持って何かに取り組んでいく学生はまだまだ少なく、ハングリー精神というものが大きく欠けているという事実は否めません。

何も期待されず、社会に対する責任もなく、さらに成熟社会において問題意識、ハングリー精神を持ちにくい状態に置かれている日本の学生たち。


そのような日本の未来に対する危機感の中で出会ったのがSTeLAという学生団体でした。こんなにも日本や世界の問題に対して当事者意識を強く持ち、自ら率先して行動している学生がいたのかという驚き。そして、STeLAを通して、出会った他の学生団体の学生も含め、日本にはまだまだ(いや、今だからこそ)こんなにも意識の高い学生がいたのかということ。それぞれが今は分散して活動し、それぞれが行っていること、その社会的価値というものはまだまだ小さいかもしれません。しかし、一人の力は小さく、一時的な効果は弱いかもしれませんが、これらの個が徐々につながってゆき、長期的に成果を積み上げていく先には必ず今より素晴らしい世界が待っていると確信しています。


その一つの発展が、このD-Labです。


途上国への貢献が絶対的な目的であることに間違いはありませんが、このプロジェクトな何よりも途上国以上に日本(の未来)を救うと思います。

成熟した社会、受験・就活・終身雇用というレールに縛られてきた構造、理系・文系というくくり、海外への抵抗感、起業など前例のない新たなことに対する恐れ、これら多くの問題を抱えている日本の学生達。彼らが、自分たちの技術を活かせる場所を見つける、世界にはまだまだ多くの問題があるのだということ、それらに自分たちが貢献できるのだということに気付く、理系・文系なんて関係なく技術を持ってしてどんどん社会問題に取り組んでいく必要がある、みんなと同じ道ではなく、どんどん世界に出て自ら何かを生み出していくような生き方があると知る、ビジネスとはお金儲けではなく、人々・世界を救うために欠かせない方法であり、もっともっと起業家が日本には必要なんだと知る・・・このプログラムを通して、日本の、それも大学に入学したばかりの可能性に満ちた多くの学生たちがこれらの気付きを得て、日本の教育、社会というものがより良くなっていくことを目指します。

Wednesday, February 10, 2010

D-lab Developing World Prosthetics 初日

2月に入り、MITの春セメスターが始まりました。
前回のエントリーでD-labは3つのカテゴリーがあり、合計10のクラスがあるということを書きました。私(遠藤)はD-labのDesignのカテゴリーの中のDeveloping World Prosthetics(DWP)というクラスのインストラクターをしているので、このブログでクラスの様子を紹介していこうと思っております。

クラス初日は、去年と同じようにD-labとDWPの説明、バイオメカニクスの基礎、コラボレータJaipurFootの紹介、そしてDWPが過去に行ってきたプロジェクトの紹介をしました。スライドはコースのwebsiteにアップロードしてあるので、よろしかったらぜひ見てみてください。

以下の動画は、2年前にインドにいったときに行った大腿義足の実験の様子です。



アメリカや日本では、長ズボンを着、クツを履いて外出することが多い為にそこまで義足の見た目を気にする人は多くないですが(インドに比べたら)、インドの人は短パンをはいて裸足で歩くことが多く、義足の見た目を非常に気にします。義足が足のような色・形でなければ受け入れられないのです。そのために、われわれは、すねと大腿の部分は従来のものを使用し、関節部分だけを設計し直すことにしました。材料は彼らが普段からつかっているHDPE(High Density PolyEthylene)を使うことにしました。このような制約条件の中で、現地の人々が求める技術を開発し、実際に現地で実装する過程がD-labの重要な部分なのです。

あれから2年経って、この大腿義足を設計した学部生がすでに卒業してしまい、プロジェクトの存続の危機もありましたが、なんとか今年新しいプロトタイプを夏までに作って、技術を現地に根付かせたいと頑張っております。

授業が終わった後、参加できなかった学部生数人からクラスを聴講したいというメールをもらいました。数日後には学生の数も固定されるので、次週クラスでは学生をチーム分けしてプロジェクトを割り当てる予定です。

D-labとは

D-labとはマサチューセッツ工科大学にて,2003年よりAmy Smith氏によって始まった国際開発と適正技術に関するコースです。D-labのミッションは「適正技術を開発、実装することによって、低所得者層の生活の質を向上させる」ことです。地球規模の問題への関心が高まる中、D-labは地球規模の問題に取り組める新しいボト ムアップ的な枠組みを提案しています。
 D-labに代表される「適正技術」と「国際開発」を組み合わせた実学重視の工学教育カリキュラムは、もの作りのスキルを伸ばすだけでなく、社会問題への視野を広げることにもなります。また、国際開発に関わるNGO/NPOに就職する学生や、 授業から起業する学生も多く、地球規模の問題解決に向けた人材育成につながります。

現在D-labには、実学重視の適正技術開発からBoP市場向けの社会起業家を目指した授業など、10種類もの授業があります。D-labの"D"は"Development though Dialog, Design, and Dissemination"を意味しており、授業も以下のようにDialog、Design、Disseminationの3種類に分類されています。



Dialogは国際開発の導入で、座学中心(講義、ケーススタディ、ロールプレイなど)の授業になります。座学中心ではありますが、ローカルのコミュニティーとの共同プロジェクトもあり、1月の冬休みを利用したインターンにも参加する学生がほとんどです。

Designは、実際に現地のパートナーの依頼に基づいて技術改良を行うプロジェクトで、様々な技術の専門家が講師となり、専門知識、途上国特有の技術設計における制約を実体験をとして学ぶ授業となっています。

Dessiminationは、他の機会を通じて経験を積んだ学生が新たなビジネスを始めることを支援する授業で、学生自らが技術、提携先を見つけ、持続可能なビジネスプランを構築する授業です。ビジネス経験のあるMBA学生の受講も多く、学内外のビジネスプランコンテストに参加することが最終課題となっています。

自己紹介・土谷

D-Lab Japan発起人の一人、土谷です。良く「何をやっている人なんですか?」と聞かれるのですが、本業は半導体の微細加工技術を駆使し、高密度で安価な燃料電池を作るため、会社を立ち上げています。ハーバードからの大学発ベンチャーなので、ハーバードにも研究員として籍を残し、学術研究と製品研究の中間で日々研究活動をしています。

さて、私が途上国向けの適正技術に興味を持ったきっかけは、米国で博士論文を書いている中で「科学技術は人々の生活を本当に豊かにしているのだろうか」という疑問を常に持ち続けてきたことにあります。私は80年代の日本に生まれ、技術の発達で豊かになった日本で育ちました。理系科目が苦手ながら理工系学部に進んだのも、やはり技術こそが人々の生活を豊かに出来る手段だと強く信じていたからです。焼け野原の日本と「豊か病」とまで言われる現代の日本、科学技術が人々の生活を豊かに出来るということに、あまり疑問を感じることはありませんでした。

しかし、米国の大学院という世界中から人が集まるコミュニティに入って世界を見渡してみると「果たして、それは正しかったのだろうか?」と思うようになりました。日本は科学技術の発達と共に豊かになったかもしれないが、その一方で成長の影になってしまった人々もいるのではないだろうかと。40億人を超える人が1日2ドル以下で暮らしている現状とは何なんだろうかと考え始めたのです。科学技術は先進国の人々の知的好奇心を刺激し、論文の投稿数や特許数を競うために為にあるのではなく、社会全体を豊かにする為に使われるべきではなかったのかと。そこで、少なくとも恵まれた環境で育った者の義務として、狭い分野の先端知識を学ぶだけではなく、科学技術が社会全体の富とならない現状の課題を見つけ出し、問題解決にも微力ながら貢献したいと思うようになった訳です。

幸い、米国の大学にも日本の大学にも似たような問題意識を持つ学生が多くいました。学生というのは既得権益をあまり持たないため、時代の動きに非常に敏感です。特に「若さ、豊富な知識、積極性」を持った学生というのは、時代の流れを作り、問題解決を導くエネルギーを持っています。世界規模のベンチャーを立ち上げてきた学生は、そうした学生たちです。そこで、米国のトップの大学で「エネルギー溢れる学生がどこにいるのだろうか」という目で大学を見渡してみました。そこで目に付いたのが、MITのD-Labなどに代表される「貧困削減に科学技術で挑む」授業でした。これらの授業に興味がある学生は、積極的な学生が多い米国のトップ大学の中でも「飛び抜けているな」という印象を持ちました。更に、D-Labは殆どの学科で卒業単位にも加算されず、非常に宿題の量も多い授業でした。日本の大学で「楽勝」の授業が人気があるのとは裏腹に、この授業は「非常に厳しい」が故に毎年抽選になる人気授業だったのです。授業の改善や設置も、学生や若手教員からの熱意に応える形でボトムアップ的に起こっていました。これはMITに限らず、他の米国のトップ大学でも同様です。

そこで、MITのOpen Course WareでD-Labの授業内容を学んでみることにしました。さらに、この分野の授業の担当者が各地から集まる会議に無理を言って参加させてもらい、この分野を深く学ぶことにしました。この体験は、私にとって目からウロコでした。D- Labは社会問題の解決に先進国の「知」や「技術」を使うというだけではなく、知識の複雑化で座学の量が増えてしまった理工学教育、学生の興味を惹けない一般教養教育のあり方を革新的に変える要素が詰まった授業だったのです。

D- Labでは、技術だけでなく、学生に途上国問題の複雑な歴史背景、文化対立、利権対立なども丁寧に教えています。実際のケースを使ったロールプレーや「1日2ドル1週間生活する」などの内容もあり、学生に当事者意識を根付かせる工夫も多くなされています。また、実際にローテクながらも人々を助ける為に技術開発を「手を動かして」行うことで、受動的ではなく能動的に工学を学ぶことも出来る訳です。簡単な技術のプロジェクトですが、学生は自ら情報を集め、ユーザーの立場でデザインを考え、決められた期間内にプロトタイプを作り、メンテナンスも含め持続可能な仕組みを考えなければなりません。小さなプロジェクトは言え、工学の基礎が全て詰まった授業なのです。更に、国際開発という女性比率の多い分野が工学に加わったことで、工学のプロジェクトにも関わらず女性比率が高いのにも驚きました。学科設置の授業ではないことから様々な経験やスキルを持つ学生が出会う場となっており、「社会問題を解決し、時代を先導するリーダーのネットワーク」が生まれる土台になっているということも理解できました。実際、授業での出会いがきっかけで起業している例も多くあります。

つまり、こうして見てみるとD-Labは「若者を育て、集まる知を生かして社会のニーズに対応し、時代を先導してゆく役割を果たす」という大学の使命そのものに上手く合致したものであり、そこが成功の裏側にあった訳です。グローバルニューディールとも呼ばれる時代の要請もあり、大学の本部もこうしたプログラムを強く支持しています。教育の質の向上、大学の社会貢献、グローバルネットワークの拡大と様々な面において、先進国の大学側にも大きなメリットがある互恵的なプログラムであるということが見えてきたのです。D-Labを始めたAmy Smithも「D-LabはTech Transferではなく、Knowledge Exchangeだ」と強調しています。途上国を助けるだけでなく、そのプロセスから先進国の学生や教員も色々なことを学んでいるのです。

そこで、日本導入を検討し始めました。日本が豊かな科学技術立国であるならば、その富とリソースを再分配してゆく義務があるのではないかと。日本の大学には貧困削減に役立つ多くのリソースが眠っています、それを刺激して出してゆきたいと思ったのです。そして「国際化」「社会のニーズに合った人材教育」「起業促進」と看板はあるものの大きな動きになっていない大学改革の流れに、若手からのボトムアップで新たな潮流を作れないだろうかと思いました。数値目標ではなく質を変えていく手助けをしたいという強い意志を持って臨むことにしました。

日本の大学はグローバル競争、少子化、独法化など厳しい環境におかれています。環境の変化に従来の縦割り構造が追従できず、世界の中で次第に存在感が薄くなっていないでしょうか。このまま旧来の姿勢を継続し、重箱の隅を突く様な先端研究だけに力を注いでいては、国際協調の流れに乗り遅れ、人材の国際競争に負け、ズルズルと存在感が無くなっていくでしょう。先端研究のレベルは欧米の大学と既に肩を並べています。国際社会でのプレゼンスの違いは「マインドセット」と「教育への熱意と質」に起因しているというのが私見です。日本の初等中等教育は欧米と比べて非常に高いレベルにあるにも拘らず、大学の卒業生の評価では逆転されてしまう。大学という「ブラックボックス」の性能が違うと考えるのは論理的な考察でしょう。大学は受動学習を能動学習へと変化させる場ですが、大教室の座学に偏重していて学生の意欲を削いでいないでしょうか。

D- Labは全ての意味で、原点に戻ることの重要性を教えてくれる気がしています。人を豊かにするのが科学技術であり、学生が最大限に学べる環境を整えるのが大学の使命です。リソース不足やグローバル化の過当競争によって疲弊している現状は良く理解できますが、原点に戻れば「出来ない」のではなく「やらなければならない」はずです。グローバル化の中、先進国日本はリーダーとなることを期待されています。その核となるべきは、時代を先取りして人材を育成する大学のはずです。

日本における高等教育の疎を築いた福沢諭吉は、慶應義塾の設置の目的として大学が「全社会の先導者」となることを強く求めました。ソニー創業者の井深大は「人間の生活に役立つものこそが本当の科学技術である」「青少年は科学技術に親しみ、日本を含む国際間の未来を切り拓く人材に育って欲しい」と述べています。成せば成るの精神で挑戦を続けた姿勢がソニーブランドを支えてきたのではないでしょうか。(余談ですが、私の名前は両親が彼の名前から取ったので、常に人生の岐路で見直しています。)パナソニックの創業者・松下幸之助もそうでしょう。「商売は世の為、人の為の奉仕にして、利益はその当然の報酬なり」「産業人の使命も、水道の水の如く、物資を無尽蔵たらしめ、無代に等しい価格で提供する事にある。」と問いかけ、その理念を実現する為に挑戦を続けました。

こう考えると、挑戦を阻害し失敗を許容しない近年の日本社会、高コスト体質が故にガラパゴス化している日本の製造業、既得権益の固まりで国際化に順応しきれない大学組織というのは、どこかで最も大切なものを忘れてしまった気がします。このD-Labは小さな活動ですが、科学技術の目的、大学の使命、企業の役割を原点に戻って考え直す要素が沢山詰まっています。日本が国際協調の時代を先導する科学技術立国となる疎を作る為、皆様にご支援ご協力頂ければと存じます。どうぞ宜しくお願いします。

Monday, February 8, 2010

自己紹介・ブルーノ

はじめまして、日本側メンバーのBruno(ブルーノ)こと原口拓郎です。
現在は筑波大学工学基礎学類に所属している4年生です。
今年の4月からは東京工業大学大学院国際開発工学専攻に進学して、
水処理の研究をする予定です。

まず、初めに私がなぜ途上国開発に興味を持ったのかという点からお話させてもらいます。
私が途上国開発に興味を持ったのは大学3年生の冬というほぼ1年ちょっと前のことです。 それまでは、私はエンジニアに漠然と興味を持っていましたが、具体的に将来何をしたいのか全く分からず学生生活を送っていました。 そんな時、大学の体育で仲良くなった国際総合学類のY君がアフリカに半年間ボランティアに行くという噂を聞き、当時休学してボランティアに行くことに疑問を感じていた私はY君にボランティアに行く理由を聞くことにしました。

彼には夢がありました。
将来途上国を救いたい。
それを実現するために、国際開発について勉強できる筑波大学国際総合学類を選んだ。
「事件は会議室で起きているんじゃない。現場で起きているんだ。授業や本では学べない途上国の現状を実際に肌で感じたい。そのために俺はアフリカに行く。」
彼はそう言いました。

私は、生まれて初めて友達を心の底から尊敬しました。
こんなに将来のことを考え、その目標を達成するために行動している。
私は一気に彼に惹きつけられました。 それと同時に彼をそこまでして突き動かしているモノは何だろうという疑問が出てきました。

それから1週間後、amazonから貧困国の現状が描かれた本が3冊届きました。
それから半年後、私は東京工業大学大学院国際開発工学専攻を受ました。
それから1年後、私は技術を通して途上国に貢献できるように活動しています。



次に、なぜD-Labに興味を持ったのかという点に関してお話しさせてもらいます。
キッカケは「世界を変えるデザイン DESIGN FOR THE OTHER 90%」という本に出会ったことです。この本を通して初めてD-Labがどのような活動をやっているのかを知りました。 途上国の人びとのニーズを真剣に考え、その現地に合った技術を開発し、その技術を通して持続可能な開発を目指す。 これこそ、科学技術の発展のあるべき1つの形ではないかと強く感じました。

日本では、科学技術の発展=最先端技術の発展 という考え方があります。
それは、1つに教育の問題に原因があるのではないかと思います。 そこで、私はこのD-Labを通して適正技術も科学技術の発展であるということを伝え、少しでも 多くの学生に途上国について自分たちが貢献できることについて考えてもらいたいと思っています。

自己紹介・新井

こんにちは。日本側メンバーの新井 元行です。

僕は東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻で、博士課程に在籍しています。持続可能な経済発展と、その実現に向けてステークホルダーが為すべき行動について研究しています。言い換えると、途上国にとって本当に意味のある開発・援助はどんなもので、そのために国際機関・政府・企業・NGO、そして僕達は何をすべきなのか、数字を使って考える、という研究です。


さて、僕がなぜD-Labを進めたいと思ったのか、これまでの僕の考え方の変化を追いつつお話ししたいと思います。


起点は高校~大学時代、人並に自分の人生の意味を考え始めていた僕は、その答えを宇宙に求めました。分からないことの答えは、よく分からない場所にあるんだろう、という感覚だったんでしょう、たぶん。というわけで、そのまま自然に機械工学の勉強を続けていましたが、宇宙開発の実態について調査活動を進めているとき、その本質的な課題は技術開発ではなく、マネジメントにあることに気づきました。


とはいえ、マネジメントなどまったく興味のなかった僕は、何も知りません。そこで、その考え方、方法論を身に着けるために、某ビジネスコンサルティング会社に入社することにしました。そこではビジネスの基本や、元々問題意識の高かった技術戦略/経営についてのノウハウを、コンサル業を通して学びました。一言で言えば、社会に求められていない技術は、開発しても意味ないですよ、ということを知ったわけです。


そんな感じで技術戦略/経営コンサルをしばらく続けていく中で、より質の高い仕事をするために、ノウハウの体系的な整理と、意見交換のできる新たな人脈が必要だと感じるようになりました。そこで、それを手に入れるために、再び大学に入学しました。2年ほど会社と大学の両方で活動していましたが、企業目線ではなく、国や世界のレベル感で議論が多く出る大学と関わることで、次第に自分の技術戦略/経営についてのノウハウを、もっと多くの人々の役に立てたいと思いはじめました。


この頃、自分の中のある変化に気づきました。自分の人生の意味は当初思っていたように遠い宇宙にあるわけではなく、もっと身近なところにあることが分かりつつある、そんな変化です。今まで自分にしか目がいっていなかったのが、少し視野が広がった感覚です。ということで、さらに視野を広め、その変化の先に何があるのか知るために、会社を辞めて世界を旅しました。


アメリカ、ベネズエラ、ヨーロッパ各国、バングラデシュ等々、色々な場所でたくさんの人々と話をしました。「おまえと知り合えてよかった」、「またいつでも泊まりにこいよ」、「今度はこっちが日本にいくよ」という話をするような、かけがえのない友達もできました。みんな感じ方や幸せを願う気持ちに違いはないことを知り、そして僕もまた彼らの幸せを願いました。同時に、旅の間会えなかった家族や友人のことも。人とのつながり、みんなの幸せの中に僕の幸せがあることを知りました。高校時代から続いていた、自分探しの旅が終わりました。


そして、そんなことを考えていた旅の途中、このD-Labと出会ったわけです。

他者の幸せを考える人が増えること、そしてその自由が等しくみんなにあること、これが僕の考える「よりよい世界」です。これを実現するには教育+実践が必要です。利他的な視点を持つ若い技術者を育てると同時に、途上国の人々を幸せにする実践的なしくみであるD-Labは、「よりよい世界」に向かうための、ひとつの可能性であると思います。

だから、ぜひとも実現させたいんです。


以上、今回の投稿ではD-Labを進めようと思った経緯について書きましたが、これからも調べたこと、感じたこと等、ブログにアップしていきたいと思います。よろしくおねがいします!

Sunday, February 7, 2010

自己紹介・横田

【自己紹介】
 日本側メンバーの横田幸信です。東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程に所属しており、主専門分野は自然科学系の機能表面材料や物性物理です。副専門分野として、社会科学系のイノベーション・マネジメントやマーケティングに関する研究や仕事にも従事しています。所属する研究室では渡部俊也教授、吉田直哉助教のもと、光触媒や機能表面材料、濡れ現象、知的財産管理の研究が行われています。
 自然科学の研究では、無機酸化物(現在はアルミナやハフニア、チタニア等)の表面の濡れ現象を研究対象としています。具体的には静的・動的撥水性の高い機能表面材料を開発しながら、同時に濡れ現象そのものについて物性研究も行っています。
 より日常生活に近い表現を使うと、「水をはじくガラス」の開発とその解析を行っています。研究室レベルのものは既に開発済みで、現在民間企業との共同研究を通じて、実用化を目指しています。原料が無機物のため、フッ素等を用いた有機系の市販撥水材料よりも耐久性が格段に高く、生体への影響が少ないことからも、環境に優しい材料と言えます。実用化研究がうまくいけば、「ワイパーのいらない自動車のフロントガラス」が近い将来登場するはずです。
 上記自然科学系の研究と共に、イノベーション・マネジメントをキーワードとして、社会科学系の研究も行っています。ここで「イノベーション」の意味するところは、「社会や人にポジティブで非連続的な変化を生じさせること」としています。東京大学i.schoolでのイノベーションに関する教育プログラムの設計と運営及び、i.schoolのプログラムそのものをケーススタディーの対象として、イノベーションが起こるメカニズムを見いだそうとしています。それらのメカニズムを個人として習得・実践するだけではなく、社会や組織内の仕組みとして設計し、社会の中で持続的に機能するイノベーション手法を構築することが目的です。また、イノベーションが発生するメカニズムの中でも、商品・サービス企画時に異なる分野の専門家によるディスカッションが有効であるとの仮説に基づき、彼らのコミュニケーションをサポートする思考言語と表現言語の整理・開発に関する研究を民間企業研究者と共に行っています。

↓私の研究内容や活動の詳細はこちらでも紹介しています。
http://web.me.com/snowsnow8/yokota8/Top.html




【なぜD-Labか?】
 私は、「モノ作り」の研究に携わる者として、日本を始め先進国の産業界(特に工学分野)がいつの間にか採用してしまっているモノ作りのコンセプトに対して、私なりの懸念と理想を持っています。
 これまで、工学分野における研究開発の目的は、大まかに言うと、「研究対象となる技術の物性的機能を高くすること」でした。機能が高い商品は、一般的にはより高い価格で販売出来、経済市場の中では、より高い利益を得ることが出来るからです。特に日本においては、中産階級の人口構成比が高いこともあり、高機能な商品を開発し、より高価格で販売していく事業戦略が取られる傾向が強くありました。
 しかしながら、特に日本において、近年は高機能な商品を製品化しても、その機能や価格の高さが仇となり、それを使用する人の財力や身体能力、知力によって、使用出来る顧客が少ないため市場が小さくなってしまうという現象が起こっています。例えば、携帯電話端末の市場では、その現象が顕著に見られます。生産者にとっては、巨額の開発費を費やしても、期待されるほどの売上が稼げず、利益率を下げてしまいます。生活者側は、本来ならばあまねく享受されるべき自然科学や工学の進歩を受けられていません。つまり、生産者と生活者の双方に不利益を生じさせています。高額な研究費を国費によってサポートされている工学系の科学者や技術者、モノ作り系の高度な専門教育を受けている学生は、彼らの研究や学習の成果を「一部のわかる人や使える人」のみに届ければよいのでしょうか。私は決してそうは思いません。その恩恵は、全ての人にあまねく享受されるべきであると考えます。
 私自身は自然科学の研究を通じて、「生活者からみた機能性は高いものの、環境負荷が少なく、地理的に人的にも汎用性が高い製品」の創出を目指しています。そして、他の日本のモノ作りに関わる企業や技術者に対しても、そのようなコンセプトに基づいた製品開発に興味を持って頂くことを期待しています。
 ここで、大切なのは、「生活者側からみて高機能」という概念です。これまでの工学的研究や経済活動は、前述の通り「研究者や技術者からみた物性として高機能」を追求することでした。これからは、物性としての意味合いだけではなく、製造や物流時の環境負荷、価格、汎用性、機能の持続性、メンテナンスの平易さ、廃棄時の環境負荷まで含めて商品としての機能性を評価されるべきだと考えます。自然と社会、経済の面で循環出来る商品が理想です。
 しかしながら、「生活者側からみて高機能」な商品を生み出す工学的研究や教育は、少なくとも日本では全く行われておりませんでした。「物性的に高機能」なものをいかにして作り出すかという教育のみが行われてきました。
 私が現在関わっている東京大学i.schoolは、「生活者側からみて必要な商品やサービスを見いだし形にして、社会にイノベーションを起こす力」の習得を目的とした教育プログラムを提供しています。D-Labの教育コンセプトもまた、その根幹となる考え方は同様だと理解しています。BoPという、私も含めた日本の大学生からは地理や文化、自らの精神的にも遠い環境を必死に洞察し、そこで生活する人達が真に必要とするモノを設計、既存の技術を組み合わせて形にする経験は、これからの日本の工学分野に必要な人材を育成するよい機会になります。また、そのような能力を備えた人物が、日本の工学分野における新しい種類の経済活動の隆盛を担う人材になるものと信じています。

自己紹介・遠藤

ボストン側メンバーの遠藤謙です。
現在、マサチューセッツ工科大学のメディアラボで義肢装具技術の研究をしている博士課程の学生です。留学前はヒューマノイドロボットの研究を行っていましたが、親友が骨肉腫になったときの衝撃から、科学技術に携わる人間として何ができるかと考えるようになり、留学するに至りました。
(こちらにボストン日本人研究者交流会の記事があります。発表資料はこちら)


所属するメディアラボバイオメカニクスグループでは、人間の歩行を解剖学・生理学・バイオメカニクスの視点から解析し、得られた知見から下腿義足の開発を行っております。研究室では、モータやセンサなど高価なものが簡単に購入でき、高価な義足が次々と組み上がりますが、一方でこの義足が何人の手にわたるのかという疑問を常に持ちながらいました。

ある日のこと、同じラボに所属するインド系アメリカ人のGreddyが一年間、インドのJaipur Footのクリニックにインターンに行くことになりました。現地から送られてくる彼のメールには、毎日100人以上もの人がクリニックに訪れ、10ドル程度の廉価な義足を持ち帰るという現実が記述されていました。MITで行われている研究と現場の状況の確執に驚愕しました。そして、彼らが抱える問題点には、私たちで簡単に解決できるものが多くあり、それからは現在の研究成果をどうやったら全世界の人々へ還元できるのかと考えるようになりました。インドから帰ってきたGreddyも同じ思いを持っていたのか、共にD-labへ足を踏み入れることになりました。その年にD-labの一部としてDeveloping World Proshtetics(DWP)という授業の中で、学部生と共に途上国向けの義肢装具の技術開発を始めました。

D-lab DWPは今年3年目を迎え、現在私は授業のインストラクターを勤めています。私自身もインドのクリニックでのインターンも経験し、この活動の意義を再確認しました。この活動には、研究室のアドバイザーProf. Hugh Herrを始め、私と同じ研究室に所属するの義足のスペシャリストたちがクラスを受講している学生といっしょに義肢装具の技術開発を行っています。研究室の中での研究活動と、途上国向けの開発活動を両立できる環境が整いつつあるのを感じてます。さらに、このような活動をする上で、技術を現地に定着させる手段の一つとして、義肢装具技術を用いたビジネスサイクルを生み出す必要性があるということも学びました。


今年留学5年目を迎えておりますが、「本当に必要とされている技術を生み出したい」という留学当初からの思いは変わっておりません。ただこのような研究活動をするためには、いまの社会のシステムがあまり適していないように思えます。このD-labは研究者としての私の挑戦でもあります。今後のD-lab Japanの活動の中で、単にD-labの理念を日本の大学に伝えるだけでなく、研究者が社会貢献に乗り出すための環境づくりへの一石も投じたいと考えております。長くなりましたが、これが私がD-labに関わるようになった経緯です。今後D-lab Japanの活動の他にも、MITのD-labのニュースやDWPの授業の経過や活動など幅広いコンテンツをブログにアップできればと思っております。今後ともよろしくお願い致します。

自己紹介・陸

D-Lab Japanブログへようこそ!
ボストン側プロジェクトメンバーの陸です。
現在、ハーバードケネディ行政大学院の国際開発専攻修士コース(MPA/ID Program)に在籍しています。留学前はビジネスコンサルティングの会社に働いていたこともあり、D-Lab Japanでは、適正技術の実用化・ビジネス化の促進を目指す、D-Lab Dissemination Development Venturesといった授業の日本導入を担当しています。
これから、適正技術を取り巻く社会の環境(途上国の現状から途上国向けビジネス(Bottom of the Pyramid BusinessBOPビジネスと呼んだ方がより正確ですね)の最新情報まで)を中心に、こちらで見聞きしたこと、考えていること、活動報告などができれば、と思っています。

さて、まず手始めに自己紹介をさせてください。

私は、中国・上海に生まれ、6歳まで中国で育ちました。その頃の上海はまだまだ発展途上で、我が家はエアコンはおろか、お風呂も洗濯機もなく、テレビは白黒、キッチンのガスもマッチでつけていました。
(お風呂はどうしていたかというと、週に数回、大きなお盆にお湯をためて即席のお風呂を作って入っていました。当時、うさぎを飼っていたのですが、ある日、父がすっかり汚れてしまったうさぎをお風呂に入れようと決めて、お風呂に入れた次の日に、うさぎが寒さで死んでしまったのをよく覚えています。全くひどいことをしたものだといまだにウサギがかわいそうでなりません。)

日本へは、船で1泊2日かけて、神戸港から入国したのですが、その時の衝撃はいまだに忘れられません。ボタンを押すとジュースが出てくる自動販売機、勝手に空いたり閉まったりする自動ドア(きっと人を選別して開け閉めしているに違いないと思い込んだ私は、なんとかドアを突破しようと全速力で走ったのを覚えています。あわてて係員に止められましたが。)、恐々乗ったエスカレーター、そごうにあった大きな仕掛け時計、いやはや日本というのはすごい国だと、子供ながらに思ったものです。

それから12年間、日本で小中高と通った私は、身も心もすっかり日本人になり、中国語は後から習い始めた英語よりもすっかり下手になって、中国のことは忘れて、サイエンスの世界にのめりこむようになりました。高校の頃は恋愛もせず、化学室に毎日通って実験をしたり、研究所の体験プログラムに参加したり、なんともオタクな生活を送っていたものです。
大学に入ったら一刻も早く研究をしたい、と高校の先生に相談をしたところ、「あなたは楽観的な人だから、大学からアメリカに行って研究をしてもいいんじゃない?」と言われ、実際楽観的だった私は留学を決意。大学は、D-Lab発祥の地である、マサチューセッツ工科大学に入学しました。

大学時代は、人間界のことにはさして興味もなく(苦笑)、分子生物学の研究ばかりをしていましたが、大学4年のとき、いくつかのきっかけが重なり、私は本当に一生研究を続けたいんだろうか、と思うようになりました。その時の決断は、理論的に、というよりは、感覚的になされたものでしたが、ともかく一旦、研究の世界を離れて、広く世の中を見渡せるような仕事に数年間ついてみよう、と決意。
某コンサルティング会社に就職をしました。

コンサルティングの仕事は、期待していたのよりもはるかに面白く、意義深い仕事でした。仕事を始めて、しみじみと、
・人とかかわる仕事がいかに面白いか
・いろいろな人の中でも、自分がいかに理系オタクな人たちを愛しているか
ということを発見しました。
そして、私は「理系の人たちの才能が、ベストな形で世の中に生かされるよう、科学技術と社会をつなぐ仕事を自分の生業にしよう」という一つ目の決意をしました。

もう一つの転機は入社3年目の夏に訪れました。大学4年の頃から、このD-Labのメンバーの何人かと共同で始めたSTeLAという団体を通じ、科学技術人材のリーダーシップ育成のお手伝いをしていましたが、そこで毎年議論する世界が面している科学技術の課題と、私がコンサルティングの仕事で手伝うメーカーの課題との間に、あまりにもギャップがあるのではないか、とぼんやり考えていたところ、会社の同僚から、「きれいな飲み水の届かない地域に、浄水機を導入しようとしている会社があるんだけど、そこのビジネスモデル作りを手伝ってみない?」と誘われました。
この機会を逃したら、一生、貧困問題にかかわることもないだろう、と思った私は、会社を休職。
国連開発計画のGrowing Sustainable Businessというユニットに属し、浄水機メーカーの村落地域向け浄水機ビジネス戦略を考えるプロジェクトに従事しました。

このプロジェクトで訪れたインドネシアの村での光景は、またも衝撃的でした。村々の各家庭で、なんともシンプルな日本製の製品が、本当に大切にされていたのです。狭い家の中に、本当に大事そうに飾られていたSomyのテレビ(たぶん偽者だとは気づいていないのでしょう)。満面の笑みで乗り回して見せてくれたYamahaのオートバイ。うちのSanyoのポンプはすごいんだから、と、10分かけて家まで連れていって見せてくれた古い電動式ポンプ。十数年ぶりに、神戸港で感じた衝撃を思い出しました。

考えてみれば当たり前のことですが、科学技術が人々の生活にもたらしうるインパクトが途上国では、はるかに、はるかに大きいことに気づいたとき、私は二つ目の決意をしました。
同じテクノロジーを届けるなら、すでに満たされた生活を送っている人にではなく、初めてテクノロジーに触れる人に届けよう」と。

とても長くなりましたが、これが私がD-Labプロジェクトにかかわろうと思ったおおざっぱな理由です。
D-Lab日本導入に関する期待・思いについてはまた順次、ブログにアップできれば、と思います。

これからどうぞよろしくお願いします!